イラストは、部門長職を歴任し取締役まで務めたジャンヌが、引退後カフェでのんびりと過ごしながらも会社の“困った!”タイミングでさっと現れ、鮮やかに問題を解決していく・・今後の高齢者雇用をイメージした漫画です。こんな頼りがいのある大先輩が寄り添ってくれたなら、と願う毎日ですが、令和3年4月1日「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(以下「高年齢雇用安定法」という。)の一部を改正し、従業員が70歳まで働ける環境を整えることが企業の努力義務となりました。
恒常的な人材不足に悩む企業としては、定年後であっても技術、能力、意欲のある人材には少しでも長く働いてほしいという切実な願いがある一方で、どんな仕事を何歳までやってもらうのか、その仕事に対していったいくらの報酬を払えばいいのかなど悩みも深いはずです。今回は改正高年齢雇用安定法について解説してみたいと思います。
働きたい⁈シニア世代
日本人の平均寿命(男性80.98歳 女性87.14歳)の延びはよく知られるところですが、体力の衰えによる行動制限なく生活できる年齢、いわゆる健康寿命も2001年から2016年の概ね15年間で3歳ほど伸びを見せ、男性は72.14歳、女性は74.79歳となっています。あくまでも「健康上の問題で日常生活に何か問題はあるか?」とのシンプルな質問に対する回答を集計して導き出した統計値ではありますが、身体機能に限らず意欲、知力、思考力なども維持され、働ける年齢も徐々に上がってきているということなのかもしれません。
令和元年内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」によると、60歳以上の高齢者のうち約4割が65歳を超えても働きたいと答え、うち2割程度は可能な限りいつまでもと希望しているという結果が得られています。また、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの60歳以上の男女に実施した就労意識に関する調査(令和 2年度「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」)で、「収入の伴う仕事をしたい(続けたい)」と考えている日本人が 40.2%もいるという結果が得られています。働きたいのか働かねばならないからなのか、どのような要因によるものなのか、もう少し掘り下げて分析する必要があるとは思いますが、このコロナ禍においても依然として日本の高齢者の就労意欲が高いという興味深い現状が見えてきます。
雇用確保措置の整備状況
毎年行われる6月1日時点の高年齢者の雇用状況報告、「高年齢者雇用状況報告(ロクイチ報告)」の令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果によると、31名以上の企業の約99.9%に65歳までの定年延長、継続雇用もしくは定年の廃止のいずれかの雇用確保措置が備わったとされています。高齢者の働きたいニーズを65歳まで吸収する環境は概ね整ったと言えるのかもしれません。
高年齢雇用安定法の改正により、この報告の名称も「高年齢者雇用状況等報告」へ改められています。
就業確保措置の対象となる企業
今回の法改正で就業確保措置を講じる努力を促されている企業とは、次のとおりです。
定年年齢を65歳以上70歳未満としている企業
70歳以上の継続雇用制度を導入していない企業
これらに該当する企業は、従業員数や資本金等の額の多寡に拘わらず、すべて就業確保措置を講じる努力を求められる企業です。
就業確保措置の種類
努力義務の対象企業は次のいずれかの就業確保措置を講じるよう求められています。
(1) 70歳までの定年引上げ
(2) 定年制の廃止
(3) 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入
(4) 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
(5) 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a. 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b. 事業主が委託、出資等する団体が行う社会貢献事業
(1)、(2)、(3)は「雇用による」措置であり、65歳までの雇用確保措置と同様です。(4)と(5)は創業支援等の「雇用によらない」措置です。措置内容は複数を組み合わせて実施することも可能です。なお、(4)、(5)の雇用によらない創業支援等の措置のみを実施する場合は、労働者の過半数を代表する労働組合等の同意を得ることが必要です。
就業確保措置(高年齢雇用安定法10条の2)の対象となる高齢者とは?
対象となる高齢者を解説する前に、企業が高齢者を雇入れる入り口について整理します。雇入れの方法は次の2通りです。
① 同じ会社もしくはグループ会社等で定年を超えて継続して高齢者(以下、「定年再
雇用者」という。)を雇用する。
② 会社の定年年齢を超えている高齢者を全く新規で採用する(以下、高齢新規採用者
という。)。
改正法の対象となり70歳までの就業確保措置が必要なのは、65歳までの雇用確保措置(高年齢雇用安定法9条)を講じている企業に雇用されている定年再雇用者です。
70歳までの就業確保措置はあくまでも努力義務です。定年再雇用者を引き続き70歳まで雇用するかどうか判断するため、一定の基準を設けることが許されています。もちろんその基準は、企業が恣意的に高齢者を排除するようなものであってはならないですし、設定する基準については労働者の過半数を代表する労働組合等の同意を得ておくことが望ましいとされています。
ところで、定年再雇用者の雇用契約が有期の場合、労働契約法18条の無期転換ルールの適用を受けることはご存知でしょうか?
無期転換ルールとは、同一の使用者との有期労働契約が「5年」を超えて繰り返し更新された場合に、労働者の申込みにより、無期労働契約に転換するというものです。
定年再雇用者であっても無期転換ルールに則って期間の定めのない契約に変更されることになります。ただし、「専門的知識等を有する有期労働契約者等に関する特別措置法」(以下「有期特措法」という。)に基づき、定年に達した後、引き続き雇用される有期雇用の定年再雇用者について、企業が労働局長の認定(第2種計画認定)を受けた場合は、無期転換ルールが適用されない特例が設けられています。
なお、有期雇用契約により採用された高齢新規採用者には有期特措法の特例は適用されず、当然に無期転換ルールが適用されることに留意が必要です。
いつまでに?ペナルティは?
70歳までの就業確保措置はいつまでに整備しなければならないのでしょうか?
改正法は令和3年4月1日に施行していますので、同日時点で70 歳までの就業確保措置が講じられていることが前提です。
就業機会の確保のために必要がある場合は、行政による指導・助言が行われ改善しない場合は、勧告される可能性もあります。
しかし、企業にとっては、今後の人員構成や人件費推移の把握、就労環境の整備など検討事項が多岐にわたり、70歳までの就業確保措置を決定するためには相応の期間が必要であると思われます。行政もこれらを考慮し、高年齢雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)(令和3年2月 26 日時点)によると「施行日時点において措置が講じられていることが望ましいが、検討中や労使での協議中、検討開始といった状況も想定される」とし、「労働局での相談支援等を活用し、措置の実施に向けた取り組みを進めて欲しい」としています。措置内容が未定の企業は、就業確保措置を講じるプロセスを確実に踏んでいくため行政の相談支援を積極的に活用していただきたいと思います。
これからの高齢者雇用を考える
70歳までの就業確保措置が努力義務とされましたが、労使双方に好ましいものとなるよう中長期の視点での制度作りが必要になっているといえます。
今後の高齢者雇用の枠組みを作っていくにあたって、検討すべき事項は以下のようにさまざまあります。
どのような仕事をしてもらうのか?
その仕事に対する適正な対価とは?
仕事と就業形態「雇用による」措置か?「雇用によらない」措置か?
「雇用による」措置とした場合の処遇は?
「雇用によらない」措置とした場合の配慮は?
仕事を継続してもらうための基準とは?
安全に仕事をしてもらう環境整備に必要なこととは?
上記に加えて、若い世代の採用抑制や技術が受け継がれない、世代交代が滞るなど悪い影響が現役世代に及ばないようなしくみ作りが望まれます。
これらの検討を十分に行うことが、労使双方に望ましい就業確保措置の導入に繋がるように思います。
スーパージェーンのように必要な時に必要な手助けが得られる、そんな理想的な関係をすべての高齢者と築くことは難しいかもしれませんが、高齢者雇用の姿がより良いものとなっていくよう労使間で十分に議論を尽くしていただけたらと思っています。
さ、私もスーパージェーンのような業務提供を目指して(๑•̀ㅂ•́)وがんばらねば!!!
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令和2年厚生労働省「厚生労働白書」―令和時代の社会保障と働き方を考える―概要[https://www.mhlw.go.jp/content/000684406.pdf]
令和元年内閣府「高齢者の経済生活に関する調査」
令和3年版高齢社会白書(概要版)令和 2年度「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」[https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2021/gaiyou/pdf/1s1s.pdf]
令和2年「高年齢者の雇用状況」集計結果[https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15880.html]
高年齢者雇用安定法Q&A(高年齢者就業確保措置関係)(令和3年2月 26 日時点)
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